*****裸足と板と立ちごごち*****




”座右の銘”――「答えは板の上にある」。

9月6日に始まった日本テレビのインターネットプログラム『笑いの巣』、この企画にエントリー中のラーメンズ・小林賢太郎は、プロフィールにこう記している。折しも前日の9月5日は、彼らの第4回単独公演 『完全立方体〜Perfect Cube〜』の最終日。シアターDの板の上には、過去三回の単独公演に共通する意見、「ラーメンズの作品はコントというより演劇だ」への解答があった。

「今までで一番バカバカしい公演になります」―――そう本人が予告したとおり、今回圧倒的に増えた「ストレートな笑い」の要素と、ギャグ・パフォーマーとしての片桐仁を前面に押し出した設定は、自分たちは紛れもなく「お笑い」であるという態度表明に違いない。その上、極め付きの奇術的演出によって、彼らの提示する「笑い」には「驚き」が伴うことも思い知らされた。

その一方で、この「バカバカしさ」を支えたのは、個々のギャグ・コントを組み上げる全体構成の巧みさ、緻密さと大胆さであり、美しいまでのシンプルさだった。大がかりな「手品」とは好対照。表立って悟られることのないよう、細心の注意を払って仕掛けられた設計図的トリックには、自分たちは「素朴なお笑い」では満足しない、という自負が滲んでいる。それは作家・演出家であり、芝居的な笑いを志向する小林賢太郎の譲れない自己主張なのだろう。

その自己主張が描く軌跡は、「片桐と小林」「笑いと演劇性」「舞台と客席」、3組の表裏面で構成された「完全立方体」を理想としているように見えた。お互いを必要としあう表裏一体は、決して切り離すことが出来ない。最も遠くて最も近く、どちらも同じ大きさで、常に表裏は入れ替わる。己に厳しい彼らにとって今回のそれは、バランスのとれた「立方体」ではなかったかもしれない。しかし、新しさにどん欲で、変化を厭うことがないその作品を、「コント」か「演劇」かなどと、既存の狭いワクへカテゴライズすることはもはや無意味だ。むしろもっと遠く遙かな高みに、そして、もっとシンプルで素朴な手触りの中に、彼らの願う「かたち」はある。



5公演をすべて「裸足」で演じきり、最終日のエンディングで小林が明かした。
「この舞台は10センチ高い、僕らの手作りなんです」と。

ささやかではあるが想いのつまった10センチという高さ、そこにこだわる彼らの志の高さは、公演直後の9月11日、実力で勝ち取ったテレビの連続オンエア記録(NHK『オンエアバトル』)や、ラジオのパーソナリティ(バーディスタジオ『ウハウハ大放送メインパーソナリティ決定戦』)のように、一つずつひるがえっては確実な形で彼らの足下にもどってくる。その積み重ねはいつの日か、他を寄せ付けないオリジナリティと共に、「決定的な高み」となるだろう。

お笑い関係者の間で「怪物」と呼ばれた小林賢太郎、
その小林が「天才」と認める片桐仁。
そして、彼らが目指す「コント芸術」―――。

この二人になら可能かもしれない。いまだ正当に評価されない「お笑い」というジャンルを、いたずらに高尚なポーズとしてではなく、内実の伴う優れた創造全般を指す、もっとも純粋で素朴な意味での「芸術」に高めることが。



『笑いの巣』のプロフィール、”有名になったらしたいこと”の質問に
小林賢太郎は、はっきりと書き込んだ。
「大きな劇場での単独公演、地方での公演」。

この先メディアの海の中、どこまで活躍の場が広がっていくとしても、
「ライブが僕らの本業です」と言い切る彼らの答えはきっと・・・

あの日二人が裸足で立った、+10センチの板の上に。



(ラーメンズ第4回単独公演『完全立方体〜Perfect Cube〜』は 9月3〜5日、昼3時・夜8時開演の計5回、約2時間、渋谷シアターDにて行われた。)




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